「2階建て新幹線」の導入理由と廃止理由(2021年にE4系の運転終了)

コラム

2021年、上越新幹線で運行されていた2階建て新幹線E4系が引退しました

2階建て新幹線は、1985年に東海道・山陽新幹線に投入された100系新幹線が始まりです

その後、東北・上越新幹線でも2階建て新幹線が登場し、通勤・通学時間帯の混雑緩和・サービス向上に大きく貢献しました

ここでは、日本における新幹線2階建て車両の歴史を振り返りながら、2階建て車両がなぜ誕生・導入したのか、なぜこのタイミングで引退したのかについて解説していきます

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2階建て新幹線の歴史

新幹線の2階建て車両は、国鉄末期の1985年に東海道・山陽新幹線にて登場しました

16両編成のうち8号車と9号車の2両が2階建て車両で、1両は1階が厨房で2階が食堂車、もう1両は1階が個室グリーン室で2階がグリーン席を設けたものでした

100系

個室のグリーン室は、完全にプライバシーが保たれることから、VIPや政治家に多く利用されました

東海道・山陽新幹線で登場した100系新幹線は、新幹線のイメージアップとサービス向上に貢献し、JRの東海道・山陽新幹線の顔となりました

一方、東北・上越新幹線では、朝の通勤・通学時間帯の利用客が増加し、1990年代初頭から輸送力の増強が急務となりました

当時はバブル景気の最中であり、都内の不動産価格は高騰し、庶民が都心で住宅を購入することはとてもハードルが高かったためです

群馬県の高崎市や栃木県の宇都宮市などの地方都市まで移住を考えると、都内と比べて安く住宅を購入でき、通勤も新幹線なら1時間ほどで着くことができます

そこで、1994年に登場したのが、着席率の向上を図るために開発された初のオール2階建て新幹線E1系「Max」です

E1系

E1系「Max」は、12両編成で、従来の200系の4割増の座席定員1235人を確保し、「新幹線通勤」の普及に貢献しました

近距離通勤だけでなく、長距離の東京〜盛岡間の「Maxやまびこ」にも運用されました

E1系が好評であったことから、1997年にはさらに居住性を向上したオール2階建て新幹線のE4系が開発されました

E4系

E4系は、1編成を8両編成817人定員とし、混雑時間帯には2本を連結した16両編成で運転しました

この場合、座席定員は1634人となり、世界最大の輸送力を誇る高速列車となりました

導入された理由

2階建て新幹線が導入された経緯としては上記に述べたとおりとなり、通勤・通学時間帯の混雑緩和が主な理由です

日本では、企業における通勤手当の一定限度額は非課税対象となっており、現在は月額15万円とされています

これは、東北新幹線ならば東京駅を起点として新白河以南をカバーする金額になります

かつては、現在より限度額は低かったですが、それでもマイホームを手に入れようとする多くの人が、その購入資金と通勤費用を天秤にかけ、通勤の費用が多少かかったとしても、それに見合うだけの安くて広いマイホームを求める方が良いという結論に達した結果、1980年代から新幹線通勤が増加し始めました

国鉄においてもフレックスという特別乗車券(実質的な新幹線定期)を1983年に発売するなど後押し、1987年に1日当たり約1万人だった新幹線の定期利用者は、1991年には約5万人にまで増加しました

企業側でも、不足する労働資本を確保するため、従業員確保の観点から補助を支給する例があり、さらに地方自治体の中には、定住者の増加を促進するため、東京圏への通勤者に対して、期間限定ながらも補助金を支給する制度を設ける例がありました

そもそも、東北・上越新幹線は当時、東京駅のホームが1面しかない上、東京駅〜大宮駅は線路を共有することから、新幹線の増発が物理的にも困難でした

これらのニーズに応えるために開発されたのがE1系だったというわけです

廃止された理由

100系から始まり200系、E1系、E4系へと受け継がれた新幹線2階建て車両は、2021年に引退することとなりました

ではなぜ、2階建て新幹線車両が必要とされなくなったのか、解説していきます

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2階建て新幹線は高速化が難しい

まず挙げられるのが、2階建て新幹線車両は、他の新幹線車両と比べて重くて遅いということです

2階建て新幹線は、速度よりも輸送力を重視した車両となっており、2階建て構造とすることで、座席数を増やし、増加する通勤客の対応を何より優先しました

しかし、2階建て構造とすることで、必然的に車両が重くなります

最後まで走っていたE4系の車両重量は60トン以上にもなり、最新のE5系新幹線の45トンと比べて大幅に重い車両になります

E5系

E5系新幹線は時速320キロに対して、E4系新幹線は時速240キロまでしか出せないことから、速達性がより重視される東北新幹線からまず撤退し、この度上越新幹線でも姿を消すこととなりました

東北新幹線は今後、北海道新幹線の札幌までの開通に合わせて時速360キロ運転を目指しており、北陸新幹線でも金沢から最終的には新大阪まで開通することとなっています

速度の遅い列車がいると、頻繁に追い越しをしなければならず、ダイヤの制約も大きくなります

また、車両が重く、重心が高いことから、加速性能・減速性能も小さくなり、東北・北海道・上越・北陸と新幹線が運行する過密ダイヤには適さない車両とされ敬遠されていました

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社会情勢の変化

昨今の企業によっては新幹線通勤の補助制度を廃止する風潮があります

また、地価がピーク時に比べて大きく下落したことや、共働き世帯の増加に伴い居住地を東京圏に求める傾向もあいまって、新幹線通勤のニーズが少なくなりました

乗客の乗降に時間がかかる

2階建て車両は、1車両の定員が多い分、乗客の乗り降りに時間がかかり、駅の停車時間が長くかかります

駅に着くと、1階客と2階客とでデッキは行列ができ、スムーズな乗り降りが劣ることに加えて、駅停車時間がかかると運行速度だけではない部分で速達性を犠牲にしなければなりません

E4系

東京駅においては、2面4線と限られたスペースで新幹線の折り返しを行なっており、駅での乗り降りが長いのは運行上の課題になります

将来的に、北海道新幹線の札幌延伸、北陸新幹線の新大阪延伸を見据えると、列車の運行本数は増加することが見込まれ、乗り降りに時間のかかる2階建て車両はその障害となります

バリアフリー対応が困難

日本では、「バリアフリー法」により、全車2階建ての車両は製造しにくくなっています

2006年に成立した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」いわゆるバリアフリー新法に基づき、国土交通省は「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準」(公共交通移動等円滑化基準)を定めています

この中では、以下のような項目があります

  • 旅客用乗降ドアは1列車につき1カ所以上は幅が80cm以上
  • 客室(車内)には1列車に1カ所以上の車いすスペースを設置
  • 車いす使用者が円滑に利用するために十分な広さを確保
  • 便所を設置する場合は、1列車ごとに1カ所以上は車いす対応にする
  • 車いす使用者は移動する通路の幅は80cm以上

新造車両や改造(客室リフォームなど)の場合は、この基準に適合しなければ認可されません

つまり、全車両が2階建ての新幹線の場合、少なくとも編成中に1両に車いす対応の座席とエレベーター、トイレを設置する必要があります

E4系は、8編成中1両に車いす対応のエレベーターを設置していますが、製造コストや保守点検コストは上乗せされますし、エレベーター利用がある場合、駅停車時間はさらに長くなります

また、1両のみエレベーターを設置していても、残りの車両は階段となり、ワゴンを用いた車内販売を行うことが難しくなります

沿線人口の減少時代に突入(利用客の減少)

今後は利用者が減少していくことから、輸送力重視の2階建て車両はこれまでのように求められることがありません

日本全国の人口が減少していくことが周知のとおりですが、各鉄道事業者においては、それを見据えて旅客単価を上げる取り組みを行っています

大手私鉄では、通勤時間帯に座席指定券を取り、確実に席に座って通勤することができる列車を増発しています

新幹線においては、輸送力ではなく、速達性・居住性・利便性の向上が目標となります

これらは2階建て車両は合致しません

まとめ

2階建て新幹線の導入背景と引退する理由について述べました

2階建て新幹線は、当初サービスの向上・混雑の緩和を目的に導入されましたが、その後の社会情勢の変化、新幹線に求められるものの変化等を経て、役割を終えたことになります

今後、2階建て新幹線が再登場することはないに等しいですが、その分通常の新幹線車両のサービス・利便性の向上に期待したいと思います

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